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わたしはいかにして物書きでい続けたか2|愛の病|狗飼恭子 - gentosha.jp

 一冊目の小説出版のあと、東京で一人暮らしを始めた。もちろん作家だけでは食べていけないので、さまざまなアルバイトについた。

 長く人と一緒にいることが苦手だったので、週末だけの短期バイトをいくつも繰り返した。当時はまだ景気が良かったから、そこそこのバイト代が貰えた。ひと月の半分バイトして、残り半分は、映画を観たり舞台を見たり本を読んだりして過ごした。担当編集さんは博識で、わたしにたくさんの面白い映画を教えてくれたし、映画の観方も教えてくれた。

 そうこうしているうちに、二作目の小説を書きましょうか、という話になった。

 なにを書くかは、あんまり迷わなかったと思う。友達の恋人を好きになってしまった十代の女の子と、彼女が先生と呼ぶ男の話だ。とても私的な物語だった。一月半くらいで書き上げた。そして書き上げたその日に、出版社まで持って行った。当時はまだインターネットも携帯電話も普及していなかったのだ。

 

  わたしの担当さんは外出中だったので、ほかの編集者さんがわたしの原稿を目の前で読み始めた。その人はわたしが憧れている売れっ子作家をたくさん抱えていた、スター編集者だった。こいつは困ったな、と思った。この人につまらないと言われたら立ち直れないかもしれない。彼は「これでも読んでいて」と殺人者の特集された雑誌を貸してくれた。自分の書いた小説を読まれているのが気になって、その雑誌の内容はまったく頭に入らなかった。

 読み終わった彼は、面白かった、と言った。その後、担当編集者さんと一緒にその物語を育てて、二作目の小説にして三冊目の本、が出版された。

 その頃、劇場でちらしを配ったりする雑用バイトをしていた。そこで出会った編集者さんに、週刊誌の映画評を書く仕事をもらった。評と言えるようなものではなく、ただの感想文だった。男性誌だったので、戦争ものやアクションものが多かった。沈黙シリーズなんて、こんなことでもなかったら観ることはなかっただろう。そのご縁の続きで、ゲームの体験記や、キャラクター絵本を書かせてもらったりもした。インタビュー記事も、一回だけ書いた。

 二十一歳のとき、新しい文庫レーベルを立ち上げることになったので、文庫書下ろしを書かないかというお話をもらった。三作目の小説の依頼だ。

 そのころのわたしは恋愛を終えたばかりだったので、その経験をもとに物語を書いた。高校時代の恩師の死をきっかけに、同居生活を送る男女三人の話だった。

 その本は増刷がかかった。しかも数回。単行本で出した旧作も文庫になることが決まり、わたしはすべてのアルバイトを辞めた。物を書くことだけで生活ができる、そう思ったのだ。

 わたしはそのとき生まれて初めて、作家になろう、と思った。それまでは、ただ書きたいから、そして書くことを欲してもらっていたから、ただ書いていただけだった。

 二十二歳だった。

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March 17, 2020 at 04:00AM
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