従来の宇宙論の検証では、銀河を点と見なして位置情報だけを調べていた。一方、初めて銀河の向きも系統的に調べた研究で、一般相対性理論にもとづく標準宇宙モデルと矛盾しない結果が得られた。
【2023年4月18日 京都大学】
宇宙の成り立ちから現在までの進化を調べる宇宙論では、正体不明のダークマターやダークエネルギーの存在を前提として、一般相対性理論に基づく標準宇宙モデルが確立しつつある。この標準宇宙モデルの正しさを検証し、モデルに含まれるパラメーターの精度を高めるために、宇宙の構造を観測する試みが進められている。
そうした試みの一つが、銀河の3次元地図作りだ。現在の宇宙における銀河の分布は、誕生直後の宇宙にあった密度のムラを反映していると考えられ、宇宙論パラメーターを決める上で重要な情報である。ただ、これまでの研究では銀河を点と見なし、その位置情報にだけ注目してきた。
目に見える銀河ではなく、強力な重力で宇宙の構造を支配するダークマターの分布も、宇宙論の検証に使われている。ダークマターそのものは見えないが、私たちから見て奥にある銀河からの光が手前のダークマターの重力によって曲がり、銀河の姿が歪むという重力レンズ効果を利用すれば、ダークマターの分布を調べることが可能だ。この場合は銀河固有の「向き」が問題となる。ただし、銀河の歪みを正しく求めるために取り除くべきノイズとしてだ。
京都大学の樽家篤史さんと奥村哲平さんは、これまで邪魔者扱いされてきた銀河の向きを系統的に調べ、銀河の位置情報と合わせて分析することで標準宇宙モデルを検証する方法を確立した。
一般相対性理論によれば、ダークマターの大きな塊があれば、銀河はその方向に向かって引っ張られるため、銀河の長軸が重力源の方を向きやすくなる。この効果は、銀河が重力源に近いほど大きくなる。そして、近くにある銀河であれば、同じように引っ張る力を受けることから、向きがそろいやすい傾向があるはずだ。
樽家さんたちスローン・デジタル・スカイ・サーベイで観測された銀河のうち約120万個のデータを使い、銀河間の距離と向きの関係を調べた。すると、銀河間の距離が数千万から数億光年離れていても向きがそろう傾向があり、距離が近いほどそろっていることが確認された。この結果は、一般相対性理論に基づいてダークマターが影響を及ぼすモデルでよく再現できる。
重力によって銀河が密集し、宇宙の構造が成長していく速度は、宇宙論における重要なパラメーターだ。銀河の位置だけを調べた従来の方法でもその値を絞り込むことができるが、向きまで考慮した今回の研究では、誤差を減らしてさらに精密に構造の成長速度を計算できた。
銀河が持つ固有の向きや形は、重力を介してダークマターと関わるだけでなく、宇宙の成り立ちや進化の過程とも密接に結びついていると考えられる。すばる望遠鏡などによって膨大な数の遠方銀河の向きや形状を観測することで、初期宇宙に起こった未知の現象を探ったり、ダークエネルギーの性質を解明したりできると期待される。
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